折り返し電停の楽しみ
坂本 一夫 60歳 東京都豊島区在住
感受性の豊かだった小学校三~四年生の少年の頃の記憶はハッキリと残っているものです。そんな中でも都電『池袋駅前』終点での大きな火花は、その色あいや音も含めて、私の思い出の大切な一場面でした。
火花はビューゲルと呼ばれる巨大な布団たたきの形をした集電装置が架線から離れる瞬間に発生するため、折り返し地点でないとほぼ起こらない現象です。パチッという音とともに、緑や青のシャボン玉のような虹色の光が見えるのです。ただ、律儀な乗務員さんは運転台から降りて、ヒモを操作して装置の方向を変えてしまうので、この場合、火花は出ません。この火花を楽しみにしているこちらとしてはガッカリです。これを見るために、自宅最寄りの停留場ではなく、父と母と終点の池袋まで行っていたというのに。
当時は、側面から見て『く』の字型をした新型装置を設置した都電も増えつつあり、これは方向転換の必要が無いものなので、この電車が来た時は、全く期待外れでした。
つまるところ三回に一度位しか大きな火花を目にする事ができなかったため、家族と一緒のときには、火花がでる電車がくるまでその場で待っていてもらうのに『もう少し』とお願いを重ねるばかりでした。“わぁ!すごいね、今の”そう言ってもらうまで我がままを通した時もありましたっけ。
今でも週に二~三回は都電を利用していますが、乗車するたび、当時の記憶がよみがえってきます。