花電車
京田 三恵 67歳 千葉県柏市在住
私が初めて都電に乗ったのは、埼玉から東京の赤羽に越してきた小学生の時です。我が家は都電の停留場から徒歩二分、都電通りから三軒目にあり、早朝から深夜まで都電の音といつも一緒でした。ですが、うるさいと思うことはなく、近くて便利と感じていました。都電は私たちの暮らしに密着していました。
昭和三十四年、赤羽に引っ越してまもなく、母が今日は「花電車」が通るからと、まだ夕刻の明るい時間から都電通りの脇に陣取りました。私は花電車を見るのは初めてでした。
「皇太子殿下(平成天皇)ご成婚記念の花電車」は、車体が見えなくなるほどのたくさんの装飾と点滅ライトを付けて、次々とやってきました。花電車は、最寄りから二つ先の終点である赤羽で折り返し、上り線も下り線もゆっくりゆっくり何台も、両方向に走っていきます。電車ごとに装飾も違っていて個性的で、暗闇の中で美しく鮮やかに輝いていました。まるで、デイズニーランドに一人で放り込まれたような感じで、息をするのも忘れてしまうほど夢中で見入っていました。
二回目に花電車(装飾電車)を見たのは、前回の東京オリンピック、三回目は都電が廃止される日のたった三台だけの地味な花電車(装飾電車)でした。それまでずっと近くにあったものがなくなる寂しさを感じました。
花電車は、私の子どもの頃の大切な思い出です。次回のオリンピックの時に花電車が走れば、必ずまた見に行きます。