the good old days
三上 恵 58歳 神奈川県相模原市在住
五十年前、母の実家は西尾久(荒川区)にあり、七歳の私と二つ違いの弟は年に二度、従姉弟たちに会いに行く。
夏はお祭り、冬は初詣。
八幡様まで叔母に手を引かれ、大通りをドキドキしながら渡る。私はまっすぐ迫ってくる都電が怖くてたまらない。
踏切がない線路も、道と区別がつかない低い停留場も不思議だ。
弟は信号が赤になる前に渡りきり、消防署へ一直線。赤い消防車に敬礼する後ろを、ゆっくりと都電が通り過ぎていく。
あらかわ遊園に行く時は、宮ノ前停留場から都電に乗る。都電の町に住む従姉弟らもチンチン電車に乗るのは久々だ。園内でも私たちは小さな電車の乗り物に乗る。キラキラの笑顔があふれる。
弟たちの憧れは運転手さん。
夕日の傾く路地裏で、チョークの線の上でハンドルをきる。
駄菓子屋、銭湯、おでんの屋台。
この町は、おもちゃ箱。
一週間後、幼い一番下の弟を抱いて両親が迎えに来る。
「バイバイ、またね、また来るね」
バスの後ろに座り、従姉弟たちに手を振るたび、町は遠く、小さくなっていく――。
「バイバイ、またね、また来るね」