チャンバラを見に行くよ
渡邊 美江子 64歳 東京都板橋区在住
チャンバラ映画は二本だてだったか、三本だったか、よく覚えていない。でも、映画スターの顔も格好いい立ち回りも、よく覚えている。昭和三十三年の冬頃、学校が終わってから「映画に行くよ」と母が言うと、そそくさと身支度をして、母と兄と私の三人で下尾久から都電に乗った。今でも唯一残る都電、荒川線だ。
当時は、今みたいにワンマンでなく、ツーマン。車内には、運転手と車掌がいた。乗客が少ないときには、子どもの私は、特別にベルを鳴らしてもいいよと言われ、紐を引っ張りチンチン鳴らすことができたのも楽しかった。
町屋一丁目停留場に着くと尾竹橋通りをすたすた歩く。東映の映画館があったのだ。
映画館の入口には時代劇スターの大きな看板。悪者がのさばり、庶民がやられ、でも最後には、スターたちがばっさばっさと悪人をやっつけ、一件落着。一本見終わると、予告編だ。「次は、これを見るんだ」なんてわくわくした。時代劇が大好きな子供だった。二本目を見終わると、外はすっかり夜。帰りは、三人で線路沿いの道を歩いて家に急いだ。あの頃は、街灯も少なく、六歳の私は、暗闇の道がこわくて母の手をぎゅっとつかんでいたっけ。おでんの屋台に立ち寄って、残り少なくなったおでんの種から一つ二つ選んで、食べた。おいしかった。
都電に乗って映画に行くというのは、あの頃の私たち家族には、とても贅沢な時間だった。