最後の年
高橋 あずさ 23歳 神奈川県横浜市在住
四年間通って知り尽くしたと思っていた早稲田の町並み。彼に連れられて細い道を何度か曲がると、そこは初めて行きつく場所だった。都電荒川線の早稲田停留場。テレビで見るようなレトロな電車が私たちを待っていた。
向かう先はあらかわ遊園。付き合って間もない彼とのデートは、楽しみ半分、緊張半分だ。しかし、この日は都電が会話を弾ませてくれた。都電が車と並走したり、歩行者に近い距離で走ったりする様子は、私にとって初めて見る風景。早稲田停留場を出発して少し走ると、早稲田大学から高田馬場駅に向かう、いつも通学で歩く大通りがちらりと見えた。
「こんなに近くを都電が走っていたんだ」
見慣れた景色が見えて、驚いた私は彼に言う。
「知らなかったの?」と彼は笑った。
乗ったときには混んでいた電車も、東池袋四丁目からは席が空き、二人で並んで座る。
「荒川線はよく乗るの?」
そう聞いた私に、彼は荒川線沿いに住んでいたおばあちゃんとの思い出を話してくれた。
話に聞き入るうちに、いつのまにか都電は目的地にたどり着く。通学なら長く感じる時間でも、新鮮な場所で過ごす時間はあっという間だった。
「チンチン!」という音に見送られて電車を降りると、同じ電車から降りてきた子どもたちが、はしゃぎながら遊園地の方へ走っていく。
卒業まで残り数か月。彼との初めてのデートで乗った都電。学生時代の思い出が、今日もまた一つ増えた。