心配性の父
坂野 由佳 25歳 神奈川県川崎市在住
都電が走る街に住んでいましたが、思えばその日が、初めての都電だったかもしれません。
その日、私は一人で都電に乗っていました。入籍日を翌日に控え、実家の両親に独身最後の挨拶をしに行った帰りです。同棲するために引っ越してからは、日帰りで行ける距離であるにも関わらず、実家に帰ることはありませんでした。
ふと、バッグの中の折りたたまれた紙に目が留まりました。帰りがけに父が渡してくれたものです。
私の父は、とても心配性です。子どもだった私が触ってケガをしては大変だと、日曜大工の道具類を仕舞っておくために専用の小屋を建てるほど。家族旅行の時も乗り換えなど念入りに調べる性格で、「旅行のしおり」を作るほどでした。そんな父が、
「帰りの乗り換えを調べておいたから」
私は「スマートフォンで調べられるよ」と笑いましたが、なんだか父らしいなと思い受け取りました。
開いてみると案の定、心配性の父らしく乗り換えの駅名や到着時刻、発車時刻などの情報が、とても細かくとても丁寧に書かれており、 最後の行に、
「幸せになれよ」
口下手な父は直接言うのも、手紙にするのも恥ずかしかったのでしょう。
「心配しなくても一番のお手本がお父さんとお母さんなんだから、大丈夫だよ」
結婚式ではそう伝えるつもりです。