喜寿のお祝い
宮本 秋子 63歳 東京都足立区在住
平成五年の五月、父の七十七歳の喜寿のお祝いにと、都電を貸切にして家族や知人に参加してもらうことを思いつきました。きっかけは落語家の方がファンを集めて独演会をしていた様子をテレビで見たこと。結婚当初、父と母は町屋に住んでいたので、都電に馴染みがあったことも理由のひとつです。
みんなが集まれるようにと、五月の連休の日に予定を組み、来てほしい方に連絡。家族や友人、親戚など総勢十五名ほどが町屋駅前に集合しました。指定時刻ぴったりに貸切電車が停留場に入ってきました。行先は鬼子母神前。わずか二十~三十分の乗車時間ですが、誰もが笑顔で父の喜寿をお祝いしてくれました。
貸切ですから、停留場には止まりません。電車を待つ人たちを窓越しに眺めながら、楽しい時間を過ごしました。初めて都電に乗った子どもたちは、窓から外の風景を見て大はしゃぎ。父や母は友人たちと当時の思い出話で盛り上がっていました。
鬼子母神前で下車し、持参したお赤飯のお弁当を広げ、昼食タイム。外で食べるお弁当に父をはじめ、皆が大喜びしてくれました。そこからまた都電で荒川遊園地へ行き、ひと遊びして、再び町屋へ戻り15時に解散。笑って、食べて、遊んで。とても思い出に残る一日となりました。
その後、父は九十四歳で亡くなりました。九十九歳の白寿にもう一度都電でお祝いしたいと思っていたのですが、夢は叶いませんでした。けれども二十三年たった今でも、当時の写真を見ては姉と「あの時は楽しかったよね、お父さんも喜んでいたよね」と話をします。ニコニコしていた、みんなの顔を思い出しながら、いつまでも荒川線が残ってくれますようにと願わずにはいられません。