都電は僕の宇宙船
林田 廣伸 64歳 東京都練馬区在住
昭和三十三~三十五年頃、小学校一~三年生だった僕は、よく母に連れられて道灌山下から都電に乗って、上野広小路にある松坂屋デパートに行きました。よく、と言っても誕生日とかクリスマスとか、いい事があった日で、年に四回ほど。松坂屋デパートでおもちゃを買ってもらって、そのあと美味しいものを食べて帰ります。都電の上野広小路界隈は、松坂屋デパートの他にもアメ横があり、そこには初めて見る雑貨や食品があふれ、小学生の僕にはまるで未知の惑星のようでした。
一番の楽しみは、当時十三円だったか、切符を買って都電に乗ることでした。運転手さんのすぐ後ろに陣取り、運転手さんと同じようにハンドルを回すマネをしたことを覚えています。
不忍通りの車道を車と一緒に走る都電が、上野動物園の水上動物たちがいる裏側を通る頃には、都電だけの通る細い道になります。その頃になると車内は動物の匂いが充満してきます。そして、運がよければ、その細い道を抜けきった後に、都電の頭上を本園と分園を繋ぐモノレールが交差することもありました。この瞬間がたまらない!
当時のモノレールは、「近未来」的な乗り物にも見えて、ますます都電が未知のものを見せてくれる宇宙船のように感じられました。もちろん、モノレールとうまく出くわさない事もあります。ですから、都電に乗る度にその一瞬をいつも夢見ていました。